論文紹介
【老年腫瘍学全般】
論文タイトル:
Training Health Care Practitioners to Effectively Communicate With Older Adults With Cancer and Their Caregivers
がんを有する高齢者とその家族とのコミュニケーションを改善するための、多職種医療者向け教育プログラムの有効性を検討した研究です。
解析対象は、医師、看護師、ナースプラクティショナー、ソーシャルワーカー、心理職、リハビリ職など8職種以上の医療者282人で、
2日間の「Geriatric Oncology: Cognition and Communication(Geri Onc CC)」研修が実施された。
1日目には、がんを有する高齢者の診療、抑うつ、せん妄、認知症、がん治療関連認知機能障害、意思決定能力、精神薬理、文化的配慮などを学び、
2日目には、模擬患者・介護者を用いて、老年医学の基本、認知機能障害への対応、共有意思決定に関するコミュニケーション訓練が行われた。
研修前後で、老年腫瘍学の知識、自己効力感、高齢者に対する態度に加えて、模擬患者・介護者との12分間の面談を録画し、研修前後を知らない
評価者が実際のコミュニケーションスキルを評価した。
結果、自己効力感は研修前3.3から研修後4.5へ(P<0.001)、老年腫瘍学に関する知識得点は6.1から6.7へ改善した(P<0.001)。
さらに、客観的に評価されたコミュニケーションスキル全体も6.2から7.9へ増加した(P<0.001)。具体的には、面談の議題を明示する割合は
43%から72%、患者側に議題を尋ねる割合は6%から42%、IADLを確認する割合は43%から62%、介護者の視点を尋ねる割合は89%から
96%へ増加した。また、がんを有する高齢者に特有のコミュニケーションスキルも7.8から8.7へ改善した(P<0.001)。一方、高齢者に対する
態度は研修前後とも平均4.1で変化を認めなかった。
本研究は、がんを有する高齢者とのコミュニケーションについて、認知機能障害や家族参加を含めた実践的な教育を行うことで、医療者の知識や
自己効力感だけでなく、実際に観察されるコミュニケーション行動まで改善した点で興味深い研究だと思います。もちろん、対照群のない研修
前後比較であり、評価も実際の日常診療ではなく模擬患者・介護者との面談で行われているため、患者アウトカムへの影響や効果の持続性に
ついては今後の検討が必要です。一方で、こうしたコミュニケーション教育そのものが、経験則や「良い取り組み」で終わるのではなく、
介入として設計され、その効果を客観的に評価する研究対象になっていることは重要だと思います。がんを有する高齢者の診療では、薬物療法
だけでなく、認知機能や家族との関係、意思決定をどう支えるかも診療の質を左右します。こうした領域の教育が、研究としてきちんと評価され、
発展していくことは喜ばしい流れだと思います。
雑誌名:JCO Oncol Pract. 2026 Jul; 22(7): 1349-1357
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40971772/
PMID: 40971772
PMCID: PMC12453593
DOI: 10.1200/OP-25-00546
【老年医学】
論文タイトル:
Advancing Geriatric Care in Japan: Integrating the 5Ms Framework With Comprehensive Geriatric Assessment for Enhanced Clinical Practice in a Super-Aged Society
CGA and 5Ms Working Group of the Japan Geriatrics Society
日本老年医学会におけるCGA・5Msワーキンググループによるポジションステートメントとしての論文のご紹介です。
高齢者総合機能評価 (Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)と、老年医学の観点から、Mind、Mobility、Medications、Multicomplexity、Matters Mostの
5領域に整理した5Msフレームワークを統合し、実装可能な高齢者診療モデルの提案に関する論文で、5Msを用いた初期スクリーニング、
必要に応じた包括的なCGA、5Msに基づく継続的な情報共有とフォローアップからなる3段階のモデルが提示されております。
本モデルにより、老年科専門医に限らず、高齢がん診療において、多職種が共通の視点を持って高齢者の複雑な課題を評価し、
本人の価値観や生活目標を尊重した医療を提供することが期待されます。
CGAについては、これまで老年科専門医や一部の医療機関で実施されてきましたが、今後は、より広い医療現場での実装が求められます。
CGAの実施には専門的知識と時間を要するため、使用が限られているケースも多くありましたが、本ステートメントにより、
5Msフレームワーク(Mind、Mobility、Medications、Multicomplexity、Matters Most)とCGAを統合し、すべての医療者が、
高齢者がん診療も含め、高齢者の包括的に評価できる可能性があることが期待できます。
雑誌名:Geriatr Gerontol Int. 2026 Jul 23; 26(7): e70700.
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42493464/
PMID: 42493464
PMCID: PMC13395633
DOI: 10.1111/ggi.70700
【肺がん】
論文タイトル:
Daily low-dose carboplatin or weekly carboplatin plus nab-paclitaxel for concurrent chemoradiotherapy in older patients with locally advanced non-small cell lung cancer (JCOG1914): A randomized phase 3 trial
75歳以上の切除不能局所進行非小細胞肺がんに対し、日本で標準治療とされる連日低用量カルボプラチン(daily CBDCA)+胸部放射線療法(RT)に対して、
CBDCA+nab-パクリタキセル(nab-PTX)+RTが全生存期間(OS)において非劣性を示すかを検証したランダム化比較第III相試験です。
JCOG0301では、RT単独に対してdaily CBDCA+RTがOSにおける優越性を示し、日本では高齢者に対する標準治療として用いられてきた。
一方、連日投与の負担や血液毒性が課題であった。週1回のCBDCA+nab-PTX+RTは、第I相試験で良好な奏効率と比較的少ない血液毒性が報告され、
治療効果を維持しながら毒性や投与負担を軽減できることが期待されていた。
JCOG1914では国内38施設からECOG PS 0~1の切除不能局所進行非小細胞肺がんを有する75歳以上の患者を登録し、標準治療群ではCBDCA 30 mg/m²をRTの
最初の20回に連日投与、試験治療群ではCBDCA AUC 2+nab-PTX 30 mg/m²を週1回、計6回投与した。両群ともRTは60 Gy/30分割で、主要評価項目はOS、
非劣性マージンはHR 1.27であった。
中間解析ではOSのHRは1.766(95%CI:0.800~3.901)、最終解析で非劣性を示す予測確率は8.0%であり、効果・安全性評価委員会の勧告に基づき試験は無効中止となった。
全124例の解析ではOS中央値は標準治療群で未到達、試験治療群で26.1か月であり、非劣性は示されなかった。Grade 3/4の好中球減少や血小板減少は試験治療群で少なかったものの、治療関連死2例、非がん関連死7例を認め、標準治療群ではいずれも認められなかった。6週時点でFACT-TOIが悪化しなかった割合も71%対48%と標準治療群で良好であった。
この試験の大きな意義は、無効中止とはいえ、75歳以上の患者を対象とする第III相試験を成立させ、OSだけでなくQOLやIADL、G8まで評価した点です。
daily CBDCA+RTは海外では広く用いられておらず国際的な一般化可能性には限界がありますが、日本では「標準治療をより使いやすい治療に置き換えられるか」
という臨床上の疑問に直接答えました。残念ながらnegative trialではありますが、日本の明日の日常診療を変え得る、非常に価値の高い研究だと考えます。
雑誌名:Lung Cancer. 2026 Aug 14; 220: 109583. Epub ahead of print.
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42636548/
PMID: 42636548
DOI: 10.1016/j.lungcan.2026.109583
【薬理】
論文タイトル:
Short-Term Opioid Treatment of Acute Locomotor Pain in Older Adults: Comparison of Effectiveness and Safety between Tramadol and Oxycodone: A Randomized Trial
ベルギーの3施設の急性期老年病棟に入院した70歳以上の高齢者を対象に、急性の中等度から高度の運動器疼痛に対するトラマドールとオキシコドンの有効性および安全性を比較した多施設前向きランダム化試験です。
対象は49例で、トラマドール群25例、オキシコドン群24例に割り付けられ、7日間の治療期間中に疼痛スコアやレスキュー薬の使用、有害事象などが評価されました。
疼痛スコアは両群とも治療開始2日後から有意に低下し、7日後まで改善が認められました。十分な疼痛コントロールに至るまでの期間やレスキュー薬の使用などについても、両群間に明らかな差は認められませんでした。
有害事象では、悪心がトラマドール群で有意に多く、せん妄や転倒もトラマドール群で多い傾向がみられました。重篤な有害事象は3例で、いずれもトラマドール群で認められました。
本研究では、高齢者の急性運動器疼痛に対する短期間のオピオイド治療について、トラマドールとオキシコドンはいずれも疼痛軽減に有効であり、鎮痛効果は概ね同程度であることが示されました。一方で、安全性については薬剤間で違いがみられており、高齢者にオピオイドを使用する際には、副作用を含めた慎重なモニタリングが重要であると考えられます。
雑誌名:Geriatrics (Basel). 2024 Apr 5; 9(2): 46.
PubMed: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38667513/
PMID: 38667513
PMCID: PMC11050500
DOI: 10.3390/geriatrics9020046